女の憂鬱


  • 2: 名前:無名作家 投稿日:2024/04/22(月) 17:30

    <2>

    窓から射し込む強い西日のせいで、顔をしかめなければならなかった。

    飲食業に就く者として、休日が平日になるのは仕方がない。
    でも混雑しない映画館に入れるのは好都合でしかなく、今日もその帰りの道中の電車に乗車していた。

    坪井修は勤めるカフェの公休日に楽しみにしていた映画を観ようとしていたのに午前は寝坊してしまった。だから午後から観るしかなくなって、帰宅ラッシュの真っ只中にいるのだった。

    空いている時間帯の電車内は空調が効いて快適なのに、この梅雨時の満員電車は不快極まりない。
    不意に左腰に軽い衝撃を感じて振り向く。
    スーツを着た男性の鞄がこちらに向かって弾んだように見えたのは、気のせいではない。
    視線を上げて鞄の持ち主、スーツの男性の前に視線を走らせる。
    そこには薄手の白いジャケットを着た女性の姿が確認できた。
    この混雑だから痴漢と勘違いした女性が、抗議を示したのだろうと思った。
    このご時世、痴漢をすれば糾弾をされるだけでは済まない。人生を棒に振るリスクを負ってまで手を出す者はそういないはずだと思った。

    自分の左側の男が視界を遮るようにスッと半身を被せる。
    その男と一瞬だけ目が合った気がしたけど、直ぐに視線を逸らす態度を見て確信した。

    こちらに気づいたその男が女性の背後にいる男に合図をすると、その男も気づかれたことを悟ったらしい。
    2人は目配せで何やらコンタクトをとった後に、こちらにだけ見えるように隙間を開けたのだ。

    鼓動が早くなるのを感じる。
    そこにはスカートが捲られてすっかり露出したお尻が見えている。
    形の良いお尻の下まで下着が降ろされて、差し込まれた男の手が弄る様子に不覚にも興奮してしまった。
    女性の降ろされた手は下で拘束されている。
    よくみれば白地に細かな花柄のスカートはワンピースのように見える。
    この時期だからかストッキングは身に着けず生足だった。

    女性の「ハァ~」という艶めかしい息遣いが聞こえてきた。
    クチュクチュと水音が響くたびに女性の頭が弾かれたように跳ね上がる。
    隙間を開けて見せてくれた男が目配せをしてきた。
    男は顔を傾けて視線の先を見ろと促しているらしい、その先はここからでは見えなくても、想像がついた。

    女性の前側にいる男も一味らしい。
    背中を向けていながら女性の股間を弄っている。
    あの女性の反応は、クリトリスを刺激されているものに違いない。

    女性の背後の男がこれみよがしに手を見せる。
    指の付け根まで濡れて光っていた。
    それを女性股間に戻して水音を立て始める。
    前後で攻められては堪らないだろうと思った。

    勃起しているのも忘れて、その光景から目を離せなくなっていた。
    その男はいよいよペニスを取り出した。
    まさか、ついにやるのかと緊張が走る。
    こちらとめが合うと、それはルール違反だと抗議を見せた。
    悪気なくおどけているが騒がれては堪らないとでも思ったの、取り出したコンドームを装着して見せる。
    そもそもルールもクソもないが、これで文句ないだろと言うようにこちらを伺うが、用意周到さに言葉を失ってしまった。

    それを女性のソコに擦りつけて、今から入れると心の準備をさせているのだろう。
    焦る女性にペニスを触らせて避妊具の装着済みを確認させると、大人しくなってしまった。
    散々その気にさせられて妊娠の心配も要らなくなったら……後は期待しかないということか……。

    目を離した隙に息を呑む気配を感じた。
    挿入の瞬間は見逃してしまったが、頭頂部が見えるくらい頭を後ろに反らした女性がいた。
    両手で腰を掴んで短く動く男に明らかに感じる女性。
    前にいる男が壁となって後ろの男が忙しく腰を振る。
    こんな状況でも前の男にしがみ付くように声を飲み込みながら感じている。
    背中に押し付けた女性の顔が横向き、こちらにもはっきり見えた。

    全身に電流が走った。
    女性は、由希子さんその人だったから………。

    そこからの記憶は断片的にしかない。
    あまりにもショックだった。

    男の射精が済むと、次はお前だと体を入れ替えさせられた気がする。
    共犯になれば一蓮托生になる、その意味で保険をかけられたと思い至ったのは事が済んだ後だった。

    男が差し出すコンドームを見向きもせず、由希子の中に押し入った。
    膣壁が押し広がる生の感触が堪らない。
    ザラザラした細かい粒々がペニスを包み込んで、追いすがるように撫で上げる。
    由希子のうなじから汗と彼女の体臭が漂ってきて、鼻腔をくすぐる。
    手を前に回してワンピースの上から乳房を鷲掴む。
    薄手の生地を通してブラジャーのレースが伝わって、その下の柔らかさが堪らない。
    片手を下ろして内腿に触れる。
    柔らかい肉が汗ばんで突き上げるたびに力の入った筋肉が引き締まる。
    手を下ろして触れた由希子の陰毛は、彼女の汁でベッタリと張り付き、破れ目はトロトロだ。

    由希子の汁で濡れた指先をクリトリスに持っていく。
    覆い隠す皮ごと捏ねて刺激を伝える。
    そうすると腰を押し付けてくるように突き出す、そんな由希子の奥を突き上げる形になって快感のループになった。

    締め付けとザラザラした壁に包み込まれて続けて危うくなってきた。
    顔の見える2人の男たちが下卑た笑みを浮かべている。
    もう数駅を通過しているはずだから、15分くらいは繋がりっぱなしになっている。
    大っぴらに腰を動かせないのだからしかたがないが、それだけ由希子を気持ち良くさせてあげられている満足感はある。

    ほとんど密着した由希子の臀部が短いピストンによって、突き立てのお餅のように波打つ。
    由希子の息遣いが辛そうに荒くなってきた。

    「ウッ…ンッ…ハッ…」

    店では聞いたことのない由希子の絞られた声が口から聞こえてくる。
    腰を早めた。
    お尻が波打って「ハッハッハッハッ………」由希子の吐息も早くなる。
    一層締め付けが強くなってきた。

    どこにも逃しようのない快楽が溢れそうになって、由希子が頭を激しく動かす。
    その仕草をもっと見ていたい……どんなに願っても射精感は待ってくれそうにない。

    由希子の頭は硬直したように動きを止めて、体と一緒になってピストンによる揺れをそのまま見せる。
    男たちが……お?……という表情を見せる。
    由希子の中にもっと居たい。
    無情な射精感がそれを許さない。
    考える暇もなく、勢いよく引き抜いた。

    ペニスの頭が外気に触れた瞬間、ビクビクと体を震わせる由希子の膣口に向かって射精していた。
    膝が抜けて座り込みそうになる由希子を慌てて抱きかかえる。
    パンティのクロッチに滴り落ちる精液をそのままに、男たちが引き上げて由希子に履かせる。
    辺りに臭いが漂うことを警戒したのだと、このときは考えもしなかった。

    自分たち側のドアが開く。
    流れるように男たちが散っていく。
    ハッとして由希子から距離をおいた。
    疲労困憊といった足取りの彼女の姿は女子トイレへと消える。
    今更に申しわけ無さがこみ上げたが、もう遅い。
    暗い気持ちが後悔となって、重くのしかかっていた。


    ふらふらしながら辿り着いたトイレの個室。

    冷えて不快なパンティを足から抜き取った。

    自らの汁と、自分のものではないものが付着していることは嫌でもわかった。

    精液の臭い。

    濡らしたトイレットペーパーで下半身を拭い、乾いたトイレットペーパーで重ねて拭いた。

    中に出されなかったのは幸運だと思った。

    嫌で堪らなかったのに、いつの間にか身を委ねる形になってしまった。

    無理矢理に、そう強引にされたのだ。

    あんなにされたら誰だっておかしくもなる、私は悪くないはず……。

    上り詰めてしまった罪悪感、自分への嫌悪感を相手に責任転嫁することで自我を守ろうとした。

    何人いたのか、3人か4人はいたはずだ。
    直接に入れてきたのはたぶん、2人だと思う。

    不覚にも感じてしまった。
    不思議なことに1人目よりも、2人目には愛情を感じたような気がしている。そんなはずはないと思うのに、それほど気持ち良かったのは事実。
    誰か知り合いだったとでもいうのか、考えただけでゾッとする。

    もしそうだったとしたら、当然許せない。
    警察に行くべきか考えでみたが、汚物箱に捨てた下着を拾い上げる気にはなれない。

    まだ膣に残るペニスの残影が頭を揺さり、溜息が出た。

    あのカフェにいる店員の彼を思い浮かべた。
    気持ちをおくびにも出さないが、あの店を訪れるたび胸が高鳴る。
    あの爽やかな笑顔は今を生きるモチベーションになっていることを、彼は知らないだろう。

    分かっている、こんなおばさんな私と彼とでは、年齢差がありすぎて恋愛は現実的ではない。
    何より痴漢に犯されて上り詰める時点で、私には資格なんてない。

    せめて2人めの男が彼だったならと、想像する。
    私は彼を許せるだろうか、答えは出ない。
    バカバカしい考えに終止符を打つ意味で、個室を出る。

    鏡の前に映る自分見た。
    あんな淫らな私を彼に見られなくて良かった。
    あれが彼である筈はない。
    もし目撃していたら、間違いなく幻滅するに決まっている。
    そうなれば私は人生の喜びを………たぶん失うだろう。

    年甲斐もなく自分の気持ちに正直になるのは怖かったが、はじめから成就しない片思いなのだからいいのだと今は思う。

    せめてあそこで食事をするくらいなら……

    彼の顔を見るくらいなら神様は赦してくれるはずだから……。

    彼の顔を見たいけど、今日は休みのはずだ。
    なるべくあのカフェには頻繁に行かないようにしている。
    自制をする為、ふらっと寄り道に来たと自分に言い聞かせたいから。

    そうだ、明日あのカフェに行こう………。

    そうと決まると、あとは外に歩き出すだけだった。

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