「思い出は降る雪のごとく遠く切なく・・・」 2 |
- 01: 名前:無名作家投稿日:2016/10/04(火) 23:43
-
三 その夜
その夜の夕食はひっそりした離れ屋敷での二人きりの夕餉だった。
久は私から離れて三畳間で後から取ると言うのを私が促して六畳間のちゃぶ台で私と差し向かいで食べるように命じたのだった。
下女が主人の家族と一緒に食事することなど有りえない時代だったから、それは格別の私からの計らいだった。何、私にしてみれば大人の女の久と差し向かいで一緒に食事をしたかっただけなのだが。
「そがいな事、あかんがいね・・・」
と久は躊躇ったが、主人の命令だったから、おずおずとちゃぶ台の前に座り、差し向かいで食事を取った。
十二歳の子供に大人の女を相手に世間話などできようはずも無く二人向かい合って黙々と箸を運ぶだけの食事だったが、それでも私は満足だった。久も嫌なそぶりではなかった。
夕食を終えると後はもう寝転んで本を読むか(ラジオなど母屋に一台あるきりで夜になれば早々に寝てしまうのが当時の常識だった)ごろ寝するくらいしかないのだった。
久は細々した片付けや繕いや何やかやと忙しく働いていたが、私が風呂に入るときは声をかけるまでも無く洗い場で背中を流してくれた。
洗い場で肌着一枚になりたすき
<省略されました> [全文を見る]
-
-
|
|