鼻毛が気付かせてくれた恋 |
- 03: 名前:名無しさん投稿日:2016/09/02(金) 17:36
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あれは私が十五歳の頃のことだ。
朝から降り続いた雨で春先にしてはとても気温の低い日だった。
日直を終えた私は帰り支度を始めていた。
来週がテストということもあり、部活動は禁止だった。
そのためいつもは威勢のいい運動部の掛け声もなくどこか寂しげな放課後だった。
誰もいなくなった教室内で一人帰り支度をしていると、ふいに扉がガラッと開いた。
私はその音にひどく驚いた。まさか誰か入ってくるなんて思わなかったからだ。
「あれ? まだいたんだ」
扉の先には髪をハーフツインにした小柄な女子生徒がいた。
向井地美音だった。
活発な彼女は暮らすの中心的存在で、いつも彼女の周囲には男女関係なく誰かしらいた。
「ああ。日直だったから」
私はドギマギとしながら答えた。
突然の来訪者に驚いたというのもあるが、私は彼女に好意を抱いていたのだ。
それは私だけではなかった。
活発で小柄ながら豊満な胸を持つ彼女に、男子生徒たちは私と同じように、いやそれ以上に好意を持つ者も少なかった。
思春期真っ只中の男子生徒の中にあって、向井地美音は自慰のターゲットにされることが多いらしかった。
クラスメイトがしていた猥談を耳にしたことがある。
やれ向井地で抜いただの、やれ向井地で抜くと気持ちいいだの本人のいないところで男子生徒たちは口々にそう言い合っているのを耳にし、私はひどく嫌悪感を抱いたものだ。
無論私とて向井地美音を想像してマスターベーションをしていないわけではなかった。
むしろ毎日のように彼女を想像して事を済ませていた。
が、それはあくまで私自身のことであって、他の男子生徒たちが私と同じことをしているのが気に喰わなかったわけだ。
自分の所有物が穢されている――そう感じてならなくて、私はいつしか彼らから距離を置くようになっていた。
気が付けば私の周りに友人と呼べる人間はいなくなっていた。
当然のことだ。自分から距離を置いていったのだから。
私は後悔をしていない。
彼らにこれ以上向井地美音を汚してほしくなかったからだ。
私にとって彼女は太陽であると同時に、神聖なものでもあり、その神々しさから畏怖する存在でもあった。
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