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  満月の夜、照らされた二人

07: 名前:Parade◆Ixy9nLcA投稿日:2013/09/30(月) 22:43

 目の前に見えるのは、花に囲まれた中で満面の笑みを浮かべる最愛の人。
 真っ白な死装束よりもさらに白い肌が目に飛び込んでくる。もとから血色の好いほうではなかった彼女は、さらに色を失っていた。
 周りを白い花々に囲まれている写真の中だけで彼女は色を持っており、それがさらに青白さを際立たせた。
 だけど、そんな姿でさえ彼女はとても綺麗で、まだ生きているのではという錯覚さえも抱かせる。
 今にも「嘘だよ!」と、いつもの笑顔を浮かべておもしろそうにそう言うような気がした。


 だけど実際には彼女は全く動かなくて、何一つ僕には告げてくれない。
 死んでいるのだから当然と言ってしまえばそうなるのだが、僕にはそんな簡単な解釈さえ出来なかった。
 僕は別に精神狂乱者でも、非常識者でもないが、時には常識にのっとった判断が出来なくなる時もある。
 今がちょうどそのときなのだと、その点だけやけに冷静に僕は感じていた。

 
 規則的なリズムを刻む木魚の音や、僕の背後ですすり泣く彼女の両親の声が僕の耳へと届く。
 彼女が死んでいるのだという実感を抱かせるそれは、止まることなく僕の心を痛めつけた。その音が生み出す空気感に、若干の吐き気すら覚える。

 僕は焼香を終えると、足早に葬儀場から出た。


 季節は夏を終えてもうすぐ秋を迎えようとしている。しかしながら未だに、照りつける日差しの強さは変わらない。
 無論、気温も残暑と言うにはあまりに高く、アブラゼミの耳障りな鳴き声も無くなる気配はない。
 生気を全く感じなかった室内とは打って変わって、外は活気にあふれていた。
 近くを通る電車の音や、遊びまわる子供たちの声が響き渡り、皆が皆いつもと同じような日常を過ごしていた。


 イライラする。
 受け入れられない現実との間で右往左往する脳内のキャパシティを溢れて、喧騒は収まることを知らない。
 苛立ちは頂点へと登り、僕は頭を掻きむしった。


 彼女が死んだのは今日と同じ、残暑とは思えないほどに暑い日だった。それも、今日と同じようにアブラゼミの鳴き声が響き渡っていた日のことだ。
 そして、確か彼女は僕の目の前で。――目の前で?


 だめだ、思い出せない。
 彼女は僕の目の前で……どうして死んだんだ?


 思考が絡まり合い、徐々に辺りの景色が視界から消えようかという時だった。
   

「……ねぇ、なんでだったの?」


 不意に聞きなれた懐かしい声が聞こえて僕は振り返る。今しがたいた葬儀場のすぐ外。忌々しい空間の目の前に『それ』はいた。
 やはり今は常識的な考えが全く出来ていないのかもしれない。


 僕の目に飛び込んできたのは、死んだはずの僕の最愛の人。
 
 
 
 
 ――菊地あやかだった。
         
         
         
         
         
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