ドラム缶 |
- 23: 名前:白楽天投稿日:2013/09/23(月) 00:34
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小さい子供がアニメ番組に夢中になっているかのように、目を輝かせている拓哉。
最初こそ私も見慣れない光景に心が躍ったが、それも飽きてきてしまった。
それどころか、轟音に恐怖さえ感じる。
「ねえ、もう帰らない?」
「もうちょっといようぜ。次はいつ見られるか分かったもんじゃないからな」
いつだってそうだ。私の願いは全部切り裂かれてきた。
自由人な彼に、枠をはめることも、リードをつけることも叶わない。
私はただ着いて行くだけ。
「なあ、ドラム缶」
「なに?」
「……なんでもない」
溜め息を吐く拓哉。
いつもは言いたいことをズバズバと言う彼が珍しい。
そのまま黙りこくってしまった拓哉を私はそっと見守ることしか出来なかった。
「帰るか」
鳴り止まぬ轟音を背に、私たちは丘を下りて行く。
何か言いたそうな顔をしている拓哉だが、私は追及するのを躊躇った。
行きとは違う重たい足取り。
「広島の男は不器用じゃけえの」
ボソッと言った一言は、相変わらず意味が分からないものだった。
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