ドラム缶 |
- 22: 名前:白楽天投稿日:2013/09/21(土) 13:36
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雷が鳴っている。
夜空の逆鱗は、周囲を昼間のように明るくさせる。
拓哉の後を追ってたどり着いた場所。
雷がよく見える丘だった。
“普通”の恋人たちが行くような場所ではない。
甘い余韻に浸れる場所でもない。
とてもじゃないが、デートスポットとはいえないこの場所に私と拓哉はいる。
「おお! すげーな。こんなにも雷が鳴るもんなんだな」
まるで小さい子供のようにはしゃぐ拓哉。
芝生の上にゴロンと横たわりながら感嘆している。
私は洋服が汚れるのが嫌でずっと立っている。
こうなることを分かっていたのだから、ビニールシートぐらいは用意してほしいと願うのは、酷なことなのか。
「ドラム缶も見ろよ」
「見てます」
「すげーよな」
確かに彼の言うとおり、初めて見る光景だ。
大地が裂けるかのような轟音の後に、カメラのフラッシュとは比較にならないほどの光が発せられる。
それはまるで映画やゲームのよう。
世界の終わりを告げているのか。
もしもこの世界が今日終わりを告げたとしたのならば、私は拓哉と死ぬことになる。
二人きり。まるでアダムのイヴのよう。
そんなことを思う自分に自嘲した。
たとえ世界が終わったとしても、私たちがアダムとイヴになんてなれないのだ。
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