報われなかった想い出 |
- 20: 名前:雛薔薇投稿日:2013/08/28(水) 19:33
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海鳴りの音に混じって聞こえるパトカーの音。そのけたたましさに風情は微塵も感じられない。
自分を逮捕しに来たのだろうか。
麻友にとってそれはどうでもいいことであった。まるで第三者のような考えを持っていた。
彼がいないこの世界。煌めく水面が奏でる波音は、まるで彼への鎮魂歌(レクイエム)のよう。
その柔らかくも、命の力強さに似た音色に耳を傾けながら麻友は歩き出した。
一歩一歩歩くたびに倉庫から離れて行く。それでも後ろを振り返ろうとはしない。取り乱してしまうかもしれないから。
永遠の愛を誓った。
永遠に愛し続ける――と。
簡単そうで難しい。麻友は潮風に吹かれながら痛感した。
自分はまだまだ子供だったのだ。永遠という言葉の重みを知っていなかった。
漫画の読み過ぎだったか。
麻友は自嘲した。
戻れない過去を振り返る。
それもいいかもしれない。
麻友はそっと目を閉じた。
冷たい潮風は、一足先に秋の到来を告げているようだった。
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