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  小学生の悪戯1

01: 名前:名無しさん投稿日:2014/04/26(土) 18:49
 水沢愛美は高校2年生―。
長い黒髪と、落ち着いた物腰で爽やかな色香を漂わせる彼女は、学校でも中々の人気者である。
 高橋健太は、愛美の家の隣に住む少年だった。
 健太の両親は共働きで、今まで何度か愛美の家で健太を預かった事もある。
 健太は、年の割りに何か大人びた雰囲気を持っており、その言動に愛美は時折ドキッとさせられることがしばしばあった。
 一ヶ月ほど前のことだった。
 愛美は、駅前の書店で、たまたま健太を見かけた。
 そのとき健太は何かの本を一生懸命立ち読みをしていた。それは小学5年生の健太が読むにはずいぶんと難しそうな専門書のたぐいだった。

「えらいわね、健太君。それ何読んでるのかな?」

「催眠誘導の実践教本だよ。」

「え・・・・・? サイミン・・ユウド・・・・・?」

「うん!最近、僕、催眠術に興味があるんだ!」

「・・・そ、そうなんだ。」

 愛美は健太の子供っぽさに、少し呆れながら鼻で笑うような態度をとってしまった。
 健太が愛美の家に泊まったとき、たわいもないアニメの話の合間に、時々難しい事を言うことがあった。
今回もその類だろうと、流すように愛美は受け答えた。

「・・・・・・お勉強の成果が出たら、お姉さんにも見せてね。」

「うん、いいよ!」

 健太は嬉しそうに頷き、ニヤッと笑顔を見せた。
 愛美は健太の笑顔を見てニコッと笑い返したが、健太の笑顔に、何か背筋にゾクゾクッと嫌悪感がはしるのを感じた。




 学校帰り、家の近所にある古びた空き家で、騒がしい子供たちの声が聞こえた。
 普段、閉じられている錆びた門が開き、誰かが侵入した形跡がある。
 愛美は何事かと思って、鬱蒼と雑草が生い茂った庭を通り、窓から中を覗いて見ると、近所の小学生たちが集まって輪を作っていた。
 その中心に健太がいた。
 正確には、健太ともう1人、小学生の女の子が輪の中にいる。
 女の子は顔を真っ赤にしてうつむいている。
 健太と女の子を取り囲むように輪になっている小学生は7人、みんな健太と女の子のことを食い入るように見つめている。ときおり、健太が何かすると、ワッと歓声が上がった。

「何をしているの、健太君?」

 何かいやな感じがした愛美は、窓から声をかけてみた。
 小学生たちが驚いたように愛美のほうを見る。
 ばつの悪そうな表情をする小学生たちの中で、健太が悠々と笑いながら言った。

「仁谷に催眠術をかけてたんだ。」

「は、はあっ?!」

 クスクス、と健太はおかしそうに笑う。
 健太の傍にいる�仁谷�という少女は、赤くなっていた顔をますます紅潮させて俯いてしまった。

「仁谷はもう、僕の言いなりなんだよ。なっ。」

 健太が少女を促す。
 が、少女は無言のままいやいやするように頭を振るばかりだ。
 愛美は、眉をひそめた。
 よくは分からないが、よからぬ事が行われていると直感したのだ。
 子供たちの1人が興奮した調子で口にする。

「健太、スゲェんだぜ!本物の催眠術が使えんの!」

 催眠術―――

 愛美は、以前に書店で健太が読んでいた本の事を思い出した。
 健太は本当にあの専門書の内容を理解して、催眠術のかけ方をマスターしたとでもいうのだろうか。
 (・・・いくら頭がいいといっても、小学5年生の子供にそんなことが・・・・・・・。)
 まさか、と愛美は思った。
 別の子供が口を開いた。

「面白くなってきたところなんだから、邪魔しないでよ、なぁ!」

 小学生たちは口々に愛美にブーイングを浴びせ始めた。
 愛美は、困ったように少女のほうを見ると、少女の目から涙がこぼれているのを見た。

「ちょっと、その子泣いてるじゃないの!」

 あわてて言う愛美は、その子の様子を見て絶句した。
 直立不動で立たされた少女の脚の途中に、下着がずらされた様に脱がされ、スカートのすそを少女自身の手が持ち、捲って露になった下半身を見せている。

「ちょっと!あなたたち、何やってるの!」

 愛美は、度を越えた子供の悪戯に、信じられないといった面持ちで動揺しながら叫んだ。
 子供たちがどっと笑い出す。
 愛美は、急いで空き家の玄関に回り、空き家の中へ入って少女の元に駆け寄った。
 小刻みに震える少女の体を抱き寄せて、スカートを下ろさせる愛美。
 言葉も発さず、逃げようともしなかった少女に違和感を覚えた愛美の頭の中に�催眠術�という言葉が浮かんだ。

「・・・健太君、まさか、本当に催眠術で・・・・・・?!」

 半信半疑の愛美が健太に聞いた。

「すごいでしょ?」
 得意そうにそう言った後、健太はニヤッと笑った。
 愛美は、恥ずかしさに涙する少女を抱きしめながら、冷やかすように笑う小学生たちと、全く悪びれない健太に、激しい怒りを覚えた。

「いますぐ、この子を元に戻してあげなさい!」

「え〜〜〜〜〜っ?!」

 一斉に小学生から不満の声が上がる。

「あのね、あなたたち。自分が何やったか分かってるの?!」

「別にぃ・・・・・・・面白いじゃん。なぁ?」

「うん。別にどうってことないよな。」

「仁谷が勝手にパンツ脱いで見せてくれたんだぜ。僕たち見てただけだもん。」

「そう、そう。」

 子供たちは口々に言い合う。

「もうっ!!」

 愛美は怒鳴った。
 普段はあまり大きな声を出すほうではないが、さすがに子供たちの無神経さと態度が癇にさわったのだ。

「立派ないじめじゃない、これって!それどころか、犯罪よ!」

 興奮のあまり愛美は小学生たちを叱り付けた。

「健太君!今すぐ、すぐにこの子を元に戻してあげなさい!」

「・・・・・・・・・・・・・・いいよ。ただの実験だし・・・。」

・低い声で返事をすると、健太は少女に近寄って言葉をかけた。

「ボクの言葉を聞いて・・・・・・・・・ボクの眼を見て・・・・・・・・・・」

 少女はゆっくりと健太に向き直り、やがて表情筋が少しずつ弛緩していった。
 愛美は少女のことを気遣いながらも、少なからず健太の催眠術はどんなものなのだろうと興味をかき立てられていた。
 ふと健太の眼を見た愛美は息をのんだ。
 大きく見開かれた瞳が強い光を放っているような気がしたのだ。
 相手が子供だということを忘れて魅入られてしまいそうな瞳だった。

「さぁ、大きく深呼吸をして・・・・・・・、数を数えるよ、1つ・・・・・・・2つ・・・・・・・3つ・・・・・・・・、だんだん瞼が重たくなってくる・・・・」

 変声期前の中性的な声で健太がささやく。
 その声は、愛美の頭の中で何度も何度も反響するようだった。
 少女の瞼がゆっくり閉じられて、催眠状態にいざなわれているのが分かった。

「・・・・・・10まで数え終わったら、仁谷はもっと深い眠りに落ちていくよ。いいね?」
 健太は数を数え始めた。

「7つ・・・・・・・8つ・・・・・・・・・・9つ・・・・・・・・・・10。」

 その瞬間、少女の体を軽く押しやり、空いた手をパンッと打つ。
 その音で愛美はハッと気がついた。
 ずっと健太の声を聞いていたはずなのに、愛美はそれまで自分が深い眠りの中にあったような感覚を味わっていた。
 そして愛美は、その両腕に、意識なく倒れこむ少女の重みを感じていた。

「ちょ、ちょっと健太君!この子どうしちゃったの?!」

 少女は声をかけても、揺らしても、愛美の両腕に抱かれたまま死んだように眠っていた。

「ボクさぁ、同級生に催眠術かけるのは何回も成功してるんだけど、それ以外の人にかけたことないんだ。」

 健太が神妙な顔で話し始める。

「ね、ちょっとだけボクの被験者になってよ。前に、見せてねって言ってたじゃない。」

 愛美は顔をしかめた。
 相手が小学生とはいえ、こんなにも簡単に人を操れてしまう力に、愛美はうっすらとした嫌悪感と、身の危険、そして底知れない怖さを感じていたのだ。

「・・・・・あたしは、催眠術とかに興味ないから・・・・・」

 何とか平静を保とうとしながら言った言葉が少し震えていた。

「・・・怖がらなくても平気だよ、ただの実験だから。かからなかったら、仁谷を元に戻して、もう二度と催眠術なんかやらないからさ。」

 健太の言葉が、愛美に否定できないように追い込んでいく。

「・・・・でも・・・・」

 愛美は口ごもった。

「まさか、お姉ちゃん、高校生なのに怖いの?小学生に催眠をかけられちゃうのが。」

「そ、そんなことないわよ。ただし、かからなかったら、もう二度とこんな酷い事はしないって約束よ。」

 健太の駆け引きに、愛美はつい引っかかってしまった。
 健太にのせられたかなと後悔しつつも、いまさら引き下がることはできなくなっていた。
(いくら催眠術を身につけているといっても、しょせん相手は子供)――そういう余裕ももあった。

「言っておくけど、あたし、疑り深いから。催眠術なんてかからないタイプよ。」

「そうかな。」

 健太はクスッと大人びた笑いを漏らす。

「愛美!」

 唐突に健太は愛美の名前を呼び捨てにした。

「愛美、そこの椅子に腰を下ろして」

「ハイ・・・・じゃなくって、うん、分かったわよ。」

 愛美は言われたとおりに椅子に腰を下ろした。
 小学生の子供に名前を呼び捨てにされるのには抵抗があったが、催眠術の『儀式』とは、そういうものなのかも、と自分を納得させる愛美だった。
愛美のそういった精神性こそが被暗示性の高さの表れとも知らずに・・・。

「そのまま楽にして・・・・・・」

 健太が座っている愛美の前にやってくる。
 正面に健太の2つの瞳が見えた。
(あ・・・・・・・・・・)
 眼が合った瞬間から、愛美は健太の瞳から視線を外せなくなっていた。
 どうして、と思う間もなく、健太が声をかけてくる。

「もっと楽にして。体の力を抜いて。」

 その言葉だけで、本当に全身から力が抜けいきそうだった。
(いけない、このままじゃ、本当に催眠術にかかってしまうかもしれない・・・・・・・・・)
 愛美は必死に体を硬くした。
 だが、そんな抵抗を見透かしていたかの様に、健太は表情一つ変えない。
 出し抜けに健太は、指を1本突き出してきた。
 愛美が反応するよりも早く、その指が愛美の額を押した。
�かくんっ�
 額を押され、愛美は首を後方へのけぞらせた姿勢になってしまう。

「愛美はね、もう催眠にかかっているんだ。」

 健太の澄んだ声が愛美の頭の中に吹き込まれる。

「そんなこと、ない・・・・・・・・・」

 なんとか、言い返す事ができた。
 気を抜いたら、このまま瞳と声に支配されそうだった。

「愛美はもう催眠術にかかっている。その証拠に、その椅子から立ち上がることができない。ボクが指1本で押さえているだけなのに愛美はそこから立てないよ。」

 なにをばかなことを、と思い、愛美は身を起こそうとした。
 さっと立ち上がって、健太の催眠術が通用しなかった事を証明するつもりだった。
 だが、いざ立ち上がろうとして愛美は愕然とした。
 足に力を入れても、体が揺れるばかりで立ち上がれないのだ。

「そ・・・んな・・・・・・・」

「言ったとおりでしょ」

「うそ、こんなの・・・・・・・・・・・・」

 愛美は必死で立ち上がろうとする。
 だが、その努力に反して、椅子から尻が持ち上がらない。
 その様子を健太は涼しそうな顔で眺めている。
 周りの子供たちは、早くも健太の術が効果を表しているのを見て、やんやの喝采だ。
 自分が見せ物になっている悔しさに、頭に血が上ってくる愛美だった。

「ね、ダメでしょ?」

 追い打ちをかける健太の言葉。
 その瞬間に愛美の敗北は、確定した事実となってしまったのだ。
 健太の用いたのは、初歩的な催眠誘導のテクニックだった。愛美は別に、催眠状態にあったわけではない。額を押さえられ仰向けに顔が倒されている状態では、誰であっても立ち上がる事など無理な相談である。要は、人間の体の特性を利用したフィジカルなトリックである。しかしそんなことを知りもしない愛美には絶大な効果を発揮する。
 愛美は抵抗が無駄に終わったことで、自分が催眠術に�かかった�ことを心の奥底で認めてしまったのだ。
健太にとって、あとは愛美の思い込みを現実にしてやるまでだった。

「ボクの言葉を受け入れてしまえば、愛美はとっても楽になれる。とっても楽に・・・・・・・・・・・・」

(楽・・・・・・・に・・・・・・?)
 だめだ。このままじゃ本当に、健太の術にかかってしまう!
 愛美の中に残る理性が、呪縛から逃れようとあがく。
 愛美の前に、健太の細い指が差し出される。

「ボクの指が見える?」

「見え・・・・・るわ・・。」

 かすれがちな声で愛美は応える。
 と、その指がつつっと空を滑って移動した。愛美の目はその軌跡を追う。

「ボクの指をずっと見ていてね。しっかり眼を見開いて、指の動きを追って。・・・・・・・でも、眠くなったら、目を閉じてもいいよ。」

 こくりと曖昧に愛美は頷く。
 その瞬間、健太の唇の端がほんの少しだけ持ち上がった。
 健太の言葉、それは巧妙な暗示を幾つも隠し持っていた。
 愛美の理性は、催眠術にかかるまいとしている。その為に愛美は目を開けて健太の指をずっと見ていなくてはならないという状況を設定されてしまったのである。
 目を閉じたら、それは催眠を受け入れた事になるという暗黙の状況設定。
 愛美はすでに浅いトランス状態にある。
 健太の持ち出した状況設定が、愛美にとって不利なものであるという指摘をするだけの明晰な思考能力は今の愛美には残っていなかった。

「ほら、ちゃんと指は見えてる?」

 健太の指が、ゆっくりとした動きで左右に揺れる。
 愛美は目を凝らしてその動きを追った。
 (見えている。)
 指が見えている間は、愛美は催眠にかからないのだ。
 愛美はそう信じていた。こうしている間にも催眠深度がじょじょに深まっているとも知らずに。
 健太は指を遠ざけたり近づけたりする。その動きを追うことで、愛美の視神経と眼球は疲労していく。
 動きを追うことに集中力を浪費している愛美の精神は、暗示に対して無防備になっていく。
 その相乗効果により、愛美のまぶたは、トロンと落ちてきた。

「愛美。まぶたが下がってるよ。」

「うそ・・・・・・・ちゃんと・・・・・・見え・・・てる。」

 周りから見れば、愛美は明らかに目を閉じかけている。だが、愛美自身は、まぶたが落ちていることに気づいていなかったのだ。
 抗えば抗うほど神経は疲労していく。
 すぐに愛美は薄目を開けているのも辛い様な状態に追い込まれていた。
 その間にも、健太はずっと一定の低い調子で語りかける。

「目を閉じちゃってもいいんだよ」

 天使のような声が愛美に囁きかける。

「そうしたら、とっても楽になれる。とっても気持ち良くなれるんだ。」

 抗いたい魔力を帯びた言葉だった。
 視界が白くかすむ・・・・・・。
 もう何も見えない・・・・・・。
 まだ、愛美は抵抗しているつもりだった。
 しかし、端から見れば、すでに目を閉じているのも同然というほどにまぶたが垂れ下がっていた。
 あとは、最後の一押しが必要なだけだった。
 健太は、愛美の両目の上に掌をかぶせた。
 光を遮られ、愛美の世界は闇に閉ざされた。

「愛美はとっても気持ちいいね」

 すかさず追い打ちをかける健太。

「ずっと、こうしていていいよ。とっても楽な気分だ。体中の力が抜けていく。それは、とっても気持ちいいことだよ。愛美はもう何も考えなくていいんだ。ボクの言葉に耳を傾けていたら、愛美はもっともっと気持ち良くなれる。」

 �がくん�と、愛美の頭が落ちる。
 健太がそっと愛美の両肩を押さえると、肩に入っていた力が抜け、愛美は椅子の上でだらりと両腕を垂らした。
 愛美は、どこか遠いところで健太の声を聞いていた。疲れ果てた神経に、健太の言葉が一つ一つ染み込んでいく。

「ボクが十数えると、愛美はもっと、ずっと深いところまで沈んでいくよ。」

 健太は一定の流れるようなリズムで声をかける。言葉の内容よりも、むしろ語りかけられるその調子が、強い催眠性を帯びているのだ。
 愛美の論理的な思考能力は、催眠の過程ですり減らされ、一時的に働きを停止させられていた。

 愛美の心は、夢の中にまどろんでいる。

 健太のカウントが進行する。
5・・・・・・・・6・・・・・・・7・・・・・・・・・8・・・・・・・・・
 愛美は思考能力も感覚もなくしていた・・・。
9・・・・・・・・・10.

 椅子からつんのめるように倒れそうになる愛美の上半身を支え、健太は会心の笑みを浮かべた。
 固唾を飲んで見守っていた小学生たちが感嘆の声を上げる。

「すげぇ。大人にも催眠術かけちゃったの?!」

 小学5年生たちにとって、高校生の愛美は立派な�大人�である。

「思ったより簡単だったよ。」

 健太は事も無げに言う。

 「このお姉ちゃん、うちのご近所さんなんだけど、前々から一度術をかけてみたいと思ってたんだ。」

 そう言った健太はニヤリと子供とは思えない卑猥な笑顔を見せた。

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